580607 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

ほぼ日刊三浦タカヒロ。

05年7月に米国農業研修にいってきました。

 平成17年度の名取市農村後継者海外派遣事業として、7月11日から18日までの11日間アメリカ・カリフォルニア州において実施された。
 縁があって末席に加えていただくことができ、これからの自分の農業経営のあり方を考え直す契機となり、持続可能な地域社会にむけての農業経営者のはたしていくべき役割、あるべき居場所について自分なりのロードマップを描くことができたと確信している。
 飛行機に乗って、たくさんのCO2を出してきた分、アメリカの農業をとりまく事情を肌で感じ、意識の違いを目の当たりにした。遅きに失した感は否めないが、そのレポートをお届けしたい。

 今回の研修は、サンフランシスコからロサンゼルスまで農場視察、酪農家へのファームステイ、ファーマーズマーケットなど多くの場所を見学した。農場視察では、大学付属有機農場、自給的有機野菜農家、大規模稲作農家・大規模露地園芸農家を見て回った。 

 カリフォルニア州は全米一の野菜(葉菜)の産地であり、カナダ、日本、韓国などに輸出をしている。多い作物は、レタス・ブロッコリー・カリフラワー・イチゴなど。農家は平均1000エーカー(約400?)を耕作している。このあたりの気候は1年中10~20℃で、日本に比べて降雨量が少なく、畑にパイプラインを敷設し、等間隔に設置されスプリンクラーが一定の時間灌水をする灌漑農業が主流。慢性的な水不足と隣合わせだが、まさにこの灌漑農業に最適な土地ともいえる。
 また、出荷する野菜・果実などの規格も日本に比べると幅が広く、規格外も家畜の飼料となっている。育種においては長期輸送に耐えうる事、豊産性、見た目(大きさ、色)が優先される。
 日本の農産物の一般的な価値観からいうと低品質なものを大面積耕作し、 安価な労働力を大量に季節雇用して人海戦術で収穫することで単位面積あたりわずか純利益を捻出している。農家は農作業従事者というよりは、生産行程管理、コスト、収益を常に考えている経営者といった印象で、生産コストの低さにはことさら驚かされた。

 サンフランシスコで立ち寄った「フェリービルディングファーマーズマーケット」。オフィス街のビルの軒先で週3回開催され、並んでいる果物や野菜などはほとんどオーガニック認証を受けている。各店の店先にはたいてい試食用の野菜やフルーツが皿にディスプレイされていて実際に味も試すことができた。栽培農家自身が直接販売。出店するのは家族経営の小規模農家がほとんどで、非常に手間をかけ、様々な工夫を凝らしていた。
 農作物や酪農品の素材だけの話ではなく、オリーブオイルやチーズなどの加工品もオーガニックのものを使うというのが一般的になっていて、日本の有機JAS食品と比べ、その基準も数段厳しく定められていて、きちんと生活者にも受け入れられて定着しているという印象を受けた。
 ファーマーズマーケットは、アメリカ農務省のデータによると現在全国に3706箇所(2004年調べ)を数える。特に近年の復興ぶりがめざましく、1994年からの10年間で2.11倍に増加。生産物をファーマーズマーケットだけで販売している農家は19000軒にものぼるという(2000年調べ)。
 最近は、収穫体験等アグリツーリズムを導入する、CSA(産直提携)で消費者グループとつながる、インターネット販売するなど、農家はそれぞれ多角的な収入方法を模索している。大きな資本が無くても店が持てるファーマーズマーケットはまた、小規模農家が付加価値をつけた商品を開発したり、個性的な品目を導入して経営に結びつけていこうとする際にも有効に機能している。
 近年、フードシステムの高度化により「食の現場」と「農の現場」の距離に国境をまたぐほどの拡大が生じている。都市近郊小規模農家の農地保全と生き残りをかけた販売先確保、そして都会に住む人々に新鮮な季節の野菜や果物などの農産物を提供する「食と農がつながり相互理解する」実践の場として、ファーマーズマーケットは不可欠なものとして位置づけられていると信じたい。
仙台市内で展開している「朝市夕市ネットワーク」のことを考えながら、出店していたある農家のトラックには、大きく「LOCAL FOOD FOR A SUSTAINABLE FUTURE」と力強く印字されていた。

 サクラメント盆地は広大な農地がはてしなく続く。サクラメント南部に位置する稲作農場であるスパングラー農場(Spangler Bros. Farm)のゲイリー・スパングラーさんに話を伺った。
農地は借地を含む3000エーカー(約1200ヘクタール)。作付けの半分はコメ、残りは牧草アルファルファ。コメの品種は中粒種ともち米。「あきたこまち」も時々作るが、食味はいいが収量があがらなくて、と言う。
作業行程は、
5年に一度、耕起前にレーザーつきの重機で若干の傾斜をつけて平らに直す。
2月に耕起しいったん水を張ったあと、水をぬく。その後農機で圃場全体に溝をつける。
有人ヘリコプターで種モミを10アールあたり25キロ撒布。除草剤も撒布する。水管理は8月末まで水深10センチ前後にし、中干ししてから9月に収穫。水は地下水と川水を利用した循環水で、モミ乾燥は自然風のみで行う。
1エーカー(0.4ヘクタール)あたり8000ポンド(3600キロ)の収穫という。日本よりも多収で10アールあたり900キロにもなる。米価は1俵(もみ45キロ)7~12ドル。1エーカーあたりの生産コストは800~900ドル。水代は100ドルを占める。
 2004年、スパングラーさんの売上げの利益はゼロで、政府の補助金があり助かったそうだ。
 米国内では、最近は環境に配慮した農業により高い補助金が出るようになった。とともに州都サクラメントの人口が増え、周辺の宅地開発が進んで地価が上昇し、全耕地面積の半分を占める借地中心の経営を圧迫。展望は、けして明るくはないとのことだった。

 中山間地域で有機農業によって経営を成り立たせようと奮闘している農場へも伺った。慣行栽培農産物との競合から、近隣の実需者への直売やCSA(地域が支える農業)、フェアトレードへ友好的に取り組み、かつ労働力の補完としてWWOOF(有機農場で働きたいと思っている人たち)を効果的に生産活動に活用していた。
 しかし、経営としては近隣のファーマーズマーケット、そして高級オーガニックスーパーマーケットがあり、互いの価格競争と消費者の囲い込み、生産物の質量の不安定なCSAへの理解の少なさなどから、消費者のサポートが薄く低収入に苦しんでいる。
 本人は現状に満足していたが、子どもを養える持続可能な経営とはどうしても感じることができなかった。
 しかし、世界的に食の安全性や多様性に対する関心が急速に高まっているなかで、地域密着型で消費者を掘り起こし、直接販売で継続的な関係を築くこの農場の取り組みは非常に参考になるものだった。

 アグロエコロジー持続性食品システム・センター(CASFS=Center for Agroecology and Sustainable Food System)を視察した。独立小農民による有機農業事業を支援する施設で、カリフォルニア大学サンタクルーズ校に付属しており、大学を核とした地域経済活性化策とも言える。
 有機農業を中心とした「持続的農業」の研究開発を行ない、大学の学生、研究者に利用されるが、同時に10ヘクタールの研究農場と1.6ヘクタールの菜園を一般市民に開放し、有機農業と小農場型農業の概念普及につとめている。大学のコースとは別の一般市民向けの6カ月有機農業研修プログラムも行なっている(2500ドル)。
 稲作についての取り組みは日本と比べて遅れているが、野菜、果樹、花きなどについては、育苗、交信撹乱、堆肥技術など、技術的に確立されている印象をうけた。
 大変参考になったのは販売のシステムである。現在アメリカでは「地域に支援された農業」(CSA)が活発化しており、CASFSはこの西部の拠点となっている(CSA西部の事務所を兼ねる)。CSAはいわばアメリカ流の産直提携運動で、都市の消費者が前もって農産物の代金を払って投資、独立小農民の生産を保証、支援する。都市の消費者がグループをつくり年毎の契約を結ぶのが普通だが、月毎、週毎などの契約を認める場合もある。環境教育、農業体験、農業支援、地域経済支援などの目的ももつ。現在、全米に約600のCSA農家がある。
 つまりこの施設はただの大学付属農場ではなく、有機農業(持続可能な農業)の販売もし、生産もし、そして環境食農教育の機能をもつという機関である。

多国籍企業・アグリビジネスが食や農を支配するように見えるアメリカだが、それに対抗する活動も非常に活発で多様化していた。このなかから共通性を見いだしていきたい。
 現在、日本では市民農園、ふれあい農園、農業体験、クラインガルテン、WWOOF、ワーキングホリデー、グリーンツーリズム、中高年ホームファーマー制度など多様なセクターにより、市場原理主義の拡大とともに「食と農の剥離をゆわえなおす」様々な活動が同時進行で展開されている。
 生活の近くに農地があり、農家の居場所をつくるために農家自身が貢献できうる、市民が農と食の現場に近づき日常的な活動。これを持続させうるための出発点としてはどんなスタイルがあるのか。今回の研修の成果として、実際に何を表せることができるのか。
有機認証はもちろん、さまざまな試行をしながら、持続可能な農業経営へとシフトしたい。
地域を巻き込みつつ、少し急いで時間をかけて醸成させていきたいと考えている。


© Rakuten Group, Inc.